沈黙の天使
「調度今ご飯が出来たから一緒に食べましょう」
絵美の手を引いてテーブルまで行こうとしたところ、絵美は支えを必要ともせずに、一番近い椅子を引き、座る。
驚きを隠せない薫は先程と同じ様に目が見えているの?と質問をしてしまうが、絵美もまた首を横に振るだけだった。
実際彼女の目は何も映さない。微かな明暗以外は何も判らないはずなのだが、不思議と周りの状況が判っていた。
目が見えなくても判るのね?と喜ぶ薫は尚も言葉を続ける。
「じゃあ、一緒にショッピングとか出来るかしら?もう少し暖かくなったら近くの公園まで散歩もいいわね」
興奮する薫に何か返答したい絵美だったが、表情を変えられない彼女には、土台無理な話だった。しかし不思議と落ち込むことはなかった。
恐らく本当に喜んでくれている彼女の心が判ったからだろう。
相変わらず食事の量は微々たるものだったが、久しぶりに楽しい食事が出来たと薫は尚も興奮気味だった。
何かお話しましょうと会話を切り出した薫が、絵美の部屋へホワイトボードを取りに行こうとした時、絵美の口元がせわしなく動いた。
何度も同じ動きを見せるその口は明らかに隆彦と言っていた。
「隆彦くん?隆彦くんの話を聞きたいの?」
しっかりと何度も頷く絵美の横に座り、いつから何処で彼と話をするようになったか、その一部始終を覚えている限り話始めた。
気付けば二人ともダイニングテーブルに持たれて眠っていた。