沈黙の天使
「羽根が無くなると、父上の姿も母上の姿も見えなくなる。見たいなら、あたしの体に触れていてね」
薫が絵美の腕を掴むのを確認すると、目を閉じ、両手を重ねて胸の上に置く。数秒も経たないうちに、絵美の羽根が今まで以上に眩しく輝き出した。
続いて髪の毛が。そして体全体が。
まばゆい、けれどもとても綺麗な光に包まれている絵美の髪が見る間に金色に変わっていく。見とれていた薫は自分の羽根が既に無くなっていることに気付いていない。
光に包まれ続ける絵美は、ゆっくりと目を開ける。
いや、包まれているのではない。彼女が輝いているのだ。これが天使。まばゆいばかりに輝き、髪は黄金色で何とも優しい表情で佇んでいる。あまりの神々しさに薫は掴んでいる腕を離しそうになった程だ。
「綺麗だよ、エミ。俺がなりたかった天使に久しぶりに会えたよ」
薫は少しだけ天使になりたい悪魔の気持ちが判った気がした。
続けて背中から大きな光が立ち上る。それは人の形になり、天使の姿を現した。
「ミア!」
ケイが恥ずかしげもなくボロボロと涙を流す。
一目散にケイの元へと移動する光り輝く天使。彼女がミアだ。絵美と同じ様に柔らかい表情でケイを見つめる。
ケイの腕が通り抜ける体。実体がない故の悲しい現実。しかし、二人はそんなことに動じていない。触れることが出来ているかのように抱き合い、小さくキスをした。
ケイの視界に写るミアが、どんどん輝きを失っていく。しかし、笑顔を失うことのない二人。二人の愛情が伝わってくる。
目に焼き付けるように、瞬きをすることも惜しみ、ただただ抱き合い、見つめる。
ミアの姿が消えてしまうその瞬間まで二人は愛し合っていたのだ。