鼓動より速く

3.ハルカ

「浮かない顔で、来ないでくれ」
「そんな顔はしてないよ」
「してるから、言ってるんだ」

ボクは、朝のトレーニングを終えるといつもここに来る。
五月蝿い医者が居るのが、気に入らないが、ここは安心する。
病院なんて、大嫌いなのに、ここだけは、病院の気がしない。
あの医者が、ボクを患者扱いしないし、ギャーギャー五月蝿いけどコーヒーなんて、出してくれたりする。

中々、ナイスな医者だ!

顔は、いつも寝たそうなくせにこんな朝早く、起きている。

早く起きているなら、ヒゲを剃れば良いのに、剃らないから実年齢より老けて見える。
実年齢は知らないけど、50才近くに見えてしまう。

「ねぇ、おじさん」
「おじさんじゃあない先生だ」
誰が何と言うが、ボクには、おじさんだ。
ベットの上に座るボクは確かに、患者だ。
けど、病室の奥、カーテンを仕切りに見える台所。そこに立つこの人は、おじさんで良い感じがする。
もしくは、オッサンでも良いくらいだ!

「50メートル走で、5秒台は無理な話かなぁ?」
「おまえじゃあ無理。前にも言ったが、心臓が破裂するゾ」
「けど、出したいんだよ」
「タイムは?50メートル走?」
「・・・15秒だよ」
「諦めろ」

確かに。
15秒台のタイムを5秒台にするのは、無理カモしれない。けど、15秒のタイムは、ガラクタが壊れないように走ったタイムだ!
全力を出したら・・・・おそらく、8秒台はいく。

問題は、全力疾走が4秒しか、出来ないって事。

4秒。

50メートル走を4秒台は有り得ない。だから、あと1秒だけ、ガラクタを保たせないといけない。

同時に身体も鍛えないと・・。

5秒間、走れても、ゴールに足していないと意味が無い。

5秒後、ボクはゴールし、そして、倒れる。
それが理想的なんだ。

「おじさん!」
「無理だ!おまえは病気だ」

おじさんが「病気」という単語を使う時は、怒ってる時だ。
本当に、怒ってる時じゃあないと「病気」なんて、言わない。

・・・病気? だから?

命より、大事なモノがあるんだ!それを分かって欲しい。

「おじさん」

力無き声を出したが、おじさんは怒ってるから、何も言い返してくれなかった。
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