ちっちゃな彼女。*30センチ差のいちごな初恋*
☆裕也side☆


「ー……?」
「どうしたの?」

辺りを見渡す俺に、麗奈が首を傾げる。

気のせいか…。

「何でもない」

俺は笑ってみせた。

一瞬、津田を見たような気がした。だけど、姿はない。

そしてまた歩き出す。
麗奈の手元には、いちご飴。

麗奈が買ってほしいとせがむから買った、いちご飴。

去年のことを、思い出さずにはいられない。

人波にはぐれた津田を探して、津田が泣いてたから、笑って欲しいとプレゼントした、いちご飴。

「裕ちゃん、何かいい事でもあった?」
「ん?」
「なんか…顔が穏やか」

自分では気付かなかった。
でも、間違いではないと思った。

去年のことを思い出すと、
津田のことを思い出すと、
心が暖かくなる。

でも、同時に切ない。

「それ、食わねぇの?」
「うん。何だか可愛くて♪」

麗奈は嬉しそうに笑う。

「でも、今日は暑いねっ」
「あぁ」

確かにもう日が暮れたはずなのに、まだ暑い。

ちょうど横を通り過ぎた人達の、話が聞こえた。

「今日、熱帯夜だってさぁ〜」
「マジ?ちょー暑い!」

だからか…。

「だから暑いんだね?」

俺が思ったことを、麗奈が先に口にする。

「裕ちゃん、熱帯夜って知ってる?」
「暑い夜」
「そーだけどっ、25度以下に下がらない夜を、言うんだよ?」
「へぇ…よく知ってるな」
「受験生ですからねっ!」
「…そういえば、大学どこ受けんの?」

高校3年生の麗奈は、もうそういう時期だ。

「うーん…まぁ…」

返事が濁る。
まだ決めてないのだろうか。
でも、麗奈も明人さんが行った大学に、行くのだろうと思った。
明人さんが卒業して居なくても、麗奈はそういう奴だから…。

「でもさぁ、熱帯夜って毎年増えてるんだよ?地球も終わりかなぁ…」

いつの間にか話は戻される。

「かもな」

「でも…裕ちゃんはずっと側に居てよ?地球が終わるまでっ♪」

冗談っぽく、笑いながら麗奈が言った。
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