揺らぐ幻影
「普通じゃん」という思わぬ言葉に顔を上げ、
一目惚れなんて引かれると思っていた結衣が見たのは、好意を証明している愛美の唇だ。
「知り合って私ら一年未満。はい、打ち明けます。コンパニオンの面接受けた事ある。蹴ったけど。
ほら、結衣知らなかったじゃん? カミングアウト。あはは」
高校生の時、少し背伸びした子は夜系のアルバイトをカジュアルにしていたりして、
時々自慢する子がいたりするのはなぜだろう。
しかし、まさか身近に居たので少し結衣はびっくりして、動揺を隠す為にコーラを一気に飲んだ。
噎せる少女にお構いなく、愛美は真面目に語るのは気色悪いからしたくないけれどと前フリをした上で、
制服が似合うガールズトークを始めた。
それは悩める乙女を救う言葉――まるで包丁を研ぐ時期に大根を切ったら、なぜか切れ味が増した魔法のように思えた。
親友の持論だと、片思いは知っていく過程を共有することが大事ならしい。
少しずつ知って、知ることが増えて、どんどん好きになっていく……
それが世間で名言的扱いを受けるフレーズ、『いつか愛になる』になるのではないかということだった。
熱く語るのは絶賛友情中な感じが痛いから断じてキャラではないと、
何度も予防線を張る愛美が結衣のツボで、
しかしまあ、笑い半分なのにどうして素直に心に入るのか――諭すのが上手な人は道徳の先生に向いているような気がする。
「愛が語れるのは老夫婦、うちらまだティーン。なら顔が好きーで大丈夫」と、
里緒菜は里緒菜らしく雑に愛美の説明を補足していく。
そんなコンビネーションの良さが相俟ってスムーズに愛美が続けた。
「結衣は一番最初の段階、まだまだこれから。人生ショボいから相手の全部分かる方が都合良すぎ、ミラクル過ぎ。
そんな変な純愛普通にないから余裕。これから知ってく段階。長かったけど分かった? ない頭に刻めた?」
こんな風に真剣な話をあえて砕けて展開させるところが、二人を好きな理由だ。
熱い部分がないフランクな雰囲気が最高にゆるくて楽しい。
引かないんだ
何も知らないけど、普通、か
目の前に居るのは自分と同い年だが精神年齢はひどく離れた大人だった。