揺らぐ幻影
登校時間を知っているのなら、寒空の下こうして無意味に二十分も待つ必要はなかった。
せいぜい二十五分に教室を出れば済んだ話だ。
それがどうしたことか。
結衣たち三人はひたすら待ち続けているなんて、わざわざ無駄に凍える罰はなかった。
……。
チークの品番を変えた話は聞いていないのに、愛美も里緒菜も頬が昨日より赤い。
また目薬をさしたのを見ていないのに、目に涙の膜があり、きらきらとしている。
そして突発的な強い風が彼女らが今朝整えたばかりであろう髪を舞わす。
それらが意味することを思うと、結衣は無性に二人に抱き着きたくなった。
切ないという気持ちは、何も男女にしか当て嵌まる単語ではないようだ。
優し過ぎる二人が愛しいのは何故。
「まだまだ待たなきゃじゃん、寒いのにごめん、ほんとありがと、あんたら二人義理人情ですよねー。侍ジャパン」
心底申し訳なく思い、また大変有り難く思い、結衣は両手を合わせ謝罪と感謝を表明した。
もしも自分が二人のどちらかならば――そんな仮説はひどく胸を痛めた。
そう、結衣が愛美なら正直言うと興味のない近藤がいつ来ようがどうでも良くて、さっさと教室でぬくぬくとしたいし、
結衣が里緒菜なら、最初は協力すると乗っかったものの、実際は風邪を引きそうな寒さを煩わしく感じるに決まっている。
いくら親切だからとはいえ、風に煽られる果てしない寒気からの震えは耐えかねないのだから、
恐らく二人も心の底では早く教室に帰りたいと不満を抑えているに違いないはずだ。
なぜなら、近藤を待っているのは自分で、近藤に会いたいのは自分で、全部が自分で、
愛美も里緒菜もこの状況は無関係でしかないのだから、なんとなく気まずくなった。
私、頼りすぎ?
甘えすぎかな
だんだんと口角が下がるのに比例して、華奢な肩もどんどん落ちる。
優しい二人を前に、悲しいとは違うよく分からない感情に包まれ、
少女は微笑ましい程度に困惑してしまっていた。