揺らぐ幻影

しかし、

「いやいや謝るとか、うちら暇人ですから。片思いのこういう淡い感じがマストじゃん」

「ほんまそれ、結衣がドキドキしてる感じが、うちら二人の枯れたつまらない毎日の刺激になるし。

などなど相乗効果がありますし、あなたはお構いなく」


――『そんなことないよ』といった友情らしいフォローは抜きで、

この状況が面白くなるよう笑う愛美と里緒菜の雰囲気に嘘はなく、

どうやら結衣の恋に付き合うことに不満や怠惰感はないらしい。


むしろ一緒になって彼女の片思いを楽しんでくれているような気さえする。

そういうものなのかと、結衣は素直に解釈し大袈裟に頷いてみせた。


南校舎、中庭、食堂、自転車置場――学校という括りが好きだ。

皆に会えるから教室が好き。女子も男子も楽しいから好き。


渡り廊下から住宅街に切り取られた遠くの地平線を眺めると、空に浮いているような気分になれる。

幸い冬場。風は十分にあるので、本当に浮足立ったまま飛んでしまえそうだ。

――なんて、このようなおかしな思考をさせるのが片思い特有の病で、

少しトンチンカンな空想に耽る節が見られても、温かい目で流してあげるのが大人の対応だろう。


友人が「来たよっ」と小さく囁くのは、初恋の合図。

目を懲らすこと数秒、遠くに親友という設定の市井と近藤が歩いている姿を発見した。

携帯電話のムービーを撮影をする時に画面の右上に出るRECという表示が視界に見えそうなくらい、

好きな人の映像を脳みそに記録してしまいたい。


たくさんの朝日を浴びているせいで、赤みがかった焦げ茶の髪色がワントーン明るく透けており、

それさえイケメンオーラを発する後光のように思える不思議。


  やばい、ドキドキしてきた!

  どしよ、どうしよう

朧げな姿を見ただけで、身体に異変が起きるのは何故。

まるで好きな人は自分だけに影響をきたす電磁波を発しているようではないか。

と、再び変な思考が頭を過ぎるが、今はそんなことを考えている場合ではない。


頑張るチャンスをうっかり逃す訳にはいかないのだから、

女子高生らしく恋愛に集中しなければならない結衣だ。

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