揺らぐ幻影

授業を真面目に受けたことがあっただろうか。

小学生の頃から机に座る勉強は苦手だった。

なんで算数はxやyを使うのか謎だったし、そもそも二乗やルートの名付けが不思議だったし、

漢字の書き順なんて完成すればバレないし、呪文じゃあるまいしレ点なんてややこしいだけだし、

なんで英語では日本がジャパンなのか不明だし、理科のガスバーナーなんて日常生活で使わないし、

壁に向かって叫んだら何秒後に返ってくるとかどうでもいいし、まずストップウォッチを持参してないし、

歴史も古墳は前が円だろうが後ろが円だろうが関心がないし――と、

いちいち屁理屈ばかり考えていた。


いつも問題とは違う部分を真剣に悩んでいたように思う。

先生にとって、結衣は厄介な娘だったのかもしれない。


でも、実践系は大好きだったし得意だった。

音楽は変な席順か楽しかったし、早く移動教室に行ってピアノ自慢する子が笑えたし、

図工や美術も毎回課題が新鮮だったし、私語が許されるから愉快だったし、

家庭科は男子のエプロン姿が面白かったし、お料理上手アピールの子がギャグだったし、

技術は興味はないが道具が不思議だったし、職人気分を満喫できたし、体育以外は5だった。


あまりの極端ぶりに失笑してしまう。
どうして結衣は堅苦しいことを我慢できないのだろうか。


「はあ、」

黒板を写す作業はつまらない。

だから現実逃避で教科書にツッコミを入れて時間を潰しているのかもしれない。


  ……。

好きな人が、笑っていた。
大好きな笑顔なのに見たくなかったのは初めてだった。

心の問題はどの教科に載っているのだろうか。

恋愛、教室に存在しないカリキュラム。

同級生や先輩後輩、皆と関わらなければ習得できないお勉強、

それなのに結衣は今、とある女子生徒とは非常に接したくないと思ってしまっている。


この恋で成績一番をとりたいなら、あの子と結衣はきっとコミュニケーションをとらなくてはならない。

嫌な勉強、嫌いな勉強。
憂鬱でしかない。
テストなら、きっと難問だ。
今までの彼女なら飛ばしてきた大問題だ。

何も書かれていないノートにシャープペンシルを挟んだまま机に突っ込んだ。

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