揺らぐ幻影
…
強い風が直撃し店先の暖簾をあらゆる方向へと泳がせてる。
どうやら透明な視界は、相当な暴れ者らしい。
追い風に任せてペダルを進められる今、
心にかかった分厚い雲までは拭い払ってくれない意地悪さに舌打ちしたくなる。
話してただけじゃん、
今日一日、頭の中に何度も言い聞かせた言葉は消えてくれない。
途中まで同じ方向の愛美とバイバイをした後、
一人になってからの結衣は、近藤と静香の姿をしつこく思い出していた。
華やかなルックスは人の目を奪い、三年の先輩たちにも慕われている。
つまり、マドカ高校で静香は上ランクの存在だ。
暗い煉瓦色とオレンジ色の綺麗なグラデーションはよく似合っていて、
そう、とっても馴染んでいて、
ちょうどあんな感じに――……
、え?
悩める結衣の目の中に許可なく入り込んだのは、
自転車に乗って信号待ちをしている想い人の姿だった。
多分、心臓が鳴った。
「あー! 田上さんじゃん」
「、っど、こ行くの?」
偶然会って、気付いてくれたのは向こうが先、嬉しいシチュエーションのはずが、
いまいち手放しで喜べない。
なんで
、なんで
彼は電車通なのだがら、その折りたたみ自転車は誰の物なのかとか、
通学路でもないのに、なぜこんな所に居るのかとか、
言葉を会話として少し扱えるようになった幼子が、見る物全てにナンデナンデと引っ切りなしに尋ねるくらい、
恋愛初心者の結衣は疑問で一杯だった。
なんでと言って困らせたかった。
展覧会と短く笑顔で答えられたのに、なぜか上手く笑い返せない。
どんどん悲しい気持ちになってしまうのはなんでなのだろうか。
判断力や分析力などを習得する子供が『なんで』と口にする時は、
好奇心に満ちてキラキラしているのに、なんで結衣はしけているのだろう。
「よーぺー結衣ちゃんと話すっけ?」
それはきっと、ドライラズベリー色の髪の男子が、
もぎたてのオレンジ色をした髪の女子と二人乗りをしていたせいだ。
……なん、で、しずかちゃんと
なんで、
ああ、信号が早く変わってしまえばいい。