揺らぐ幻影
近藤のデザインを褒めて、静香が彼の良さに気付くのが嫌だった。
自分ではない人が好きな人の隣に居るのが嫌だった。
学校で一番可愛くない子の自信がある。
冷たい風がミントの香りを運ぶ。
爽やかになれて、リラックスする馴染みの香りなのに気分が優れない。
ホームルームを知らせるチャイムが鳴り、「田上さん遅刻するよ」と言われたが、
我が儘な結衣は、わざとのんびりゆっくりゆっくり歩いた。
そうやって嫌な態度をとればとる程、自分が嫌いになる癖に、
引き際が分からなくて、切ないんだとばかりに振る舞うことは最強な構ってちゃんだ。
静香ちゃんはチャンなのに、なんで田上さん?
、なんで先に教室に追い払おうとするの
静香ちゃんと二人きりになりたいの?
私が邪魔……?
静香ちゃんと二人で遅刻したいの?
結衣が先に行った後を二人きりで歩いてほしくない。
嫉妬が暴れないように、ぎゅっとスカートの裾を掴んだ。
今どんな顔をしているのだろうか。
せっかく奥が教えてくれた可愛くなれるメイクで魔法をかけても、
嫉妬に汚れた不細工さが滲み出ているに違いない。
「静香のが上手〜、やった」
まるでスキップをしているかのような声を出し、静香はスケッチブックを胸に抱く。
そう、リアルな女子高生は、しかし賢いのだ。
自信がないと悲観的になる言動が、空気を乱すことに気付く。
だから結衣は、「静香ちゃんの着たーい」と口先だけで社交辞令を述べた。
アハハと笑うことも対人スキル。
普通の女の子は猫かぶりだ。
自信満々、他者に評価され喜ぶ静香とは正反対なしょげた顔をしているのは、結衣が好きな人だ。
あ、
絶対にしたらいけないことがある。
自己を優先し、人を傷付けることだ。
ランドセルが似合う子供だって知っている。
人として終わっている、そう思った。
大切な人を、自分が可愛いあまりに傷付けてしまった。
長い前髪に隠れた目がどんな色をしているのかはもう分からない。
校舎に反射した朝日は思いの外眩しく、
清々しい一日の始まりを知らせる太陽に罪悪感を覚えた。