揺らぐ幻影
「これ。どっちが好き? 静香は左でよーぺーが右」
「……えっと」
説明されたのは、服がかかれた紙をセロテープで貼った雑なもので、
ワンピースを着たのっぺらぼうの女の子のイラストが並んでいた。
いかにも服コらしいと結衣は他人事のように感じる。
「右だろ。肩のライン綺麗じゃん?」
「いやいや左だよねー、首詰めた方?、が胸のバランス綺麗」
二人が同じようなテンションで熱く迫ってきた。
同じ意識を持っている二人に挟まれたら楽しくなかった。
どうしてこんなに不細工な心なのだろうか。
ライン? とか何
正直デザインのことなんて結衣にはさらさら分からない。
右は肩のラインにこだわりがあるように、大きな丸衿を大胆に袖にしてあり、お人形さんのようだ。
腰周りがコルセットっぽく絞ってあり、ふんわりとした裾の広がりが可愛らしい。
一方、左は衿を詰めてあるが、胸元に隠れた切れ込みがあって、
きっと動くとチラリ肌が覗きセクシーなのだろう。
右が近藤、左が静香。
例え右が静香、左が近藤だったとしても、結衣が着たいのは決まっていた。
少女はスケッチブックを畳むと笑顔で言った。
「左かな!」
喉の中にまで心から溢れた醜態がべったりと密着している。
もう、なにもかも嫉妬だった。
昨日打ち上げに行って盛り上がったから、今朝早起きをしてアトリエに居たらしい二人が嫌だった。
同じ目的に仲良しな二人が嫌だった。
嫌だ、静香が嫌だ。大嫌いだ。
初めて好きな人の作品に触れられたのに、知りたくないと思ってしまうのは何故。
ついていけない世界観を見せつけられると、どうでもいいとそっぽを向きたくなる。
子供じゃない、結衣はガキだ。
嫉妬。
ヤキモチなんて可愛い類いではない、じっとりとした嫉妬だ。
お風呂場の鏡にこびりついた水垢みたいに、たちが悪い。
洗っても落ちないし、生活の知恵で予防策を練っても汚れる、しつこいいたちごっこ。
逃げても逃げても嫉妬に追いかけられる。
自分の存在自体が嫌い。
キラキラ輝けない、どす黒く憎む女は不潔だ。
心が狭い子はすごく汚い。