揺らぐ幻影

悲しくて苦しくて、切なくて辛くて、泣きたくて虚しくて、結衣の心はぼろぼろだ。

この感情を歌にしてレコード会社に送れば、

リアルと評判のヒットチューンを世に送り出す現役女子高生シンガーソングライターになれるのかもしれない。

なんてつまらない冗談はよそう。


高校生、十六歳、人並みの生活をしてきた近藤は無垢ではないのだから、

彼だって知っているはずだ。

自分が女の子と居ることが何になるのかを。

そう、結衣が傷付くことくらい、自信を無くすことくらい読めるはずだ。


  ……。

片思いをしていると意外なことで恋心は弱くなるらしい。


「田上さん?」

暗いお花畑の世界から引き出したのは、大塚だった。

違うのだ、結衣をちゃんとしてくれる唯一の人はこんなどうでもいい男子ではなく、あの人じゃなきゃならない。


それをなぜ、

「どうかした?」

純粋なまでに優しくしてくる?


ピュアな奴は自覚がないのだろうか、無垢さが人を苛立たせることを。

有難迷惑という言葉を知らないのだろうか。

「田上さん、?」

自信がない怯んだ声を出すくらいなら、話しかけなければいいじゃないか。

頑張れば結衣が振り向くとでも思っているのだろうか。


恋する真っ直ぐな瞳は――ああ、大塚が自分に思えてしょうがないのだ。

近藤にしつこくした自分と被って非常に神経を逆なでされ腹立たしいのだ。


だからって――


「もお、うるさいってば!!」

怒鳴る権利もないし、苛立ちをぶつける資格もないし、彼より身分が上のはずがないのに、

大声を出した少女の爆音が教室の中で我が儘に暴れていた。


馬鹿は大塚ではなく結衣だった。馬鹿だから自分が馬鹿なことを忘れていた。

一日に二人をも傷付けるとは、立派な有害人物かもしれない。


「――、ごめ、……おおつか」

謝罪の効果がないことくらい知っている。

「うるさいのはお前だぞ」と先生が注意し、「騒音田上ー」「不快デシベル」とお調子者が続くのを、

他人事のように聞いていた。


「……。」

結衣は女子高生で、ここは教室で、もうすぐ十六で、――ああ、呆れるくらい馬鹿な女だ。

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