揺らぐ幻影
―――――――
――――
勇気を取り戻したヘタレは頑張って敵陣に挑んでいた。
ドレスコードを指定されているのに無視して普段着で乗り込む感じ。
近くて遠いF組は服コらしさがパワーアップしたようで、
ドアに服飾コースを英単語にしたらしき読めないデザインのネームプレートが装着されていた。
マドカ高校で最もキラキラした世界へと足を踏み入れるのは久しぶりだ。
と、目の前に現れたのはアトリエ室が使える選ばれし三人の内の二番手・三千子だった。
束になった付けまつ毛は目尻に向かって長くなっている。
ホッペのてっぺんに入ったチークの赤みが玩具っぽい。
「あ、結衣ちゃん、バイト楽し?」
さほど仲良くないし接点もなく、アルバイト先に市井と来たくらいなのに、
フレンドリーな笑顔を絶やさないあたり、いかにも服コの一味といえよう。
優秀生徒の肩越しに、好きな人の世界を盗み見した。
蛍光灯の周りに巡らせたビーズや、壁に張られた似顔絵、個人の机に巻かれたマスキングテープ、
華やかな空間は眩しい。
……、あ
両手に抱えていた荷物を重たく感じたのは気のせいだ。
忘れていた、努力を操るのはいつだって好きな人なのだ。
教室に入ってすぐの席にふわふわした髪の少年が居て、
当然、横にはオレンジ色の髪が可愛い少女が座っていた。
明るいカラーはオシャレな人でないと似合わないけれど、
センスが良い静香はとっても様になっている。
……。
笑っていて、近藤が静香に笑っていて――気合いが抜けた心は痛くて苦しくて、泣きたくなる。
せっかく頑張ったのにこれだ。
切ないと言ってみたくなる。
だって、侵入者に気が付いていながら挨拶をしてくれないし、
手を振ってくれないし、会釈さえしてくれないし、目さえ合わせてくれない。
このままE組に戻るのも意味不明なので、意気阻喪した結衣は「市井くん、いい?」と、三千子にお願いした。
「イッチー! 結衣ちゃん」
元気いっぱい伸びやかな声が響いた。
だから近藤だって聞こえているのに、こっちを見てくれやしないのは、
彼が故意に結衣を避けているせいだ。
わざと存在を無視している。
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勇気を取り戻したヘタレは頑張って敵陣に挑んでいた。
ドレスコードを指定されているのに無視して普段着で乗り込む感じ。
近くて遠いF組は服コらしさがパワーアップしたようで、
ドアに服飾コースを英単語にしたらしき読めないデザインのネームプレートが装着されていた。
マドカ高校で最もキラキラした世界へと足を踏み入れるのは久しぶりだ。
と、目の前に現れたのはアトリエ室が使える選ばれし三人の内の二番手・三千子だった。
束になった付けまつ毛は目尻に向かって長くなっている。
ホッペのてっぺんに入ったチークの赤みが玩具っぽい。
「あ、結衣ちゃん、バイト楽し?」
さほど仲良くないし接点もなく、アルバイト先に市井と来たくらいなのに、
フレンドリーな笑顔を絶やさないあたり、いかにも服コの一味といえよう。
優秀生徒の肩越しに、好きな人の世界を盗み見した。
蛍光灯の周りに巡らせたビーズや、壁に張られた似顔絵、個人の机に巻かれたマスキングテープ、
華やかな空間は眩しい。
……、あ
両手に抱えていた荷物を重たく感じたのは気のせいだ。
忘れていた、努力を操るのはいつだって好きな人なのだ。
教室に入ってすぐの席にふわふわした髪の少年が居て、
当然、横にはオレンジ色の髪が可愛い少女が座っていた。
明るいカラーはオシャレな人でないと似合わないけれど、
センスが良い静香はとっても様になっている。
……。
笑っていて、近藤が静香に笑っていて――気合いが抜けた心は痛くて苦しくて、泣きたくなる。
せっかく頑張ったのにこれだ。
切ないと言ってみたくなる。
だって、侵入者に気が付いていながら挨拶をしてくれないし、
手を振ってくれないし、会釈さえしてくれないし、目さえ合わせてくれない。
このままE組に戻るのも意味不明なので、意気阻喪した結衣は「市井くん、いい?」と、三千子にお願いした。
「イッチー! 結衣ちゃん」
元気いっぱい伸びやかな声が響いた。
だから近藤だって聞こえているのに、こっちを見てくれやしないのは、
彼が故意に結衣を避けているせいだ。
わざと存在を無視している。