揺らぐ幻影
前を歩く好きな人。
比較的横幅のある廊下には放課後を満喫している雑音ばかりが反響し、
肝心な近藤らの会話の中身までは聞き取れやしない。
あわよくば友人とどんな話をするのか盗み聞きしたかった危ない一面を持っている結衣は、
少し自分に引くが、初恋に忠実になれば仕方がない乙女心だと弁解した。
彼は何を話して何に笑っているのだろうか。
アルバイト? テレビ? 宿題?
今、彼は何を考えているのだろう。
何も分からない。
それでも結衣は幸せだった。
目的方向に近藤が見えるだけで心持ちが変わるのかただ一人以外はただの絵で、
たった一人しか心臓を操らなくなり、あっという間に二人だけの国に変わる。
キラキラキラキラ輝くピンク色に染まる。
世界で一番初めにハートを桃色に塗った人は誰なのだろうか。
第一人者は絶対に思春期で恋愛を堪能した人物だと思う、可愛らしさが素晴らしいではないか。
カッコイイ
恋をして良かったと思う。
全ての行動にスキップしたいくらい陽気になれるなんて幸せでしかない。
いちいちご機嫌になれるのだから、幸福の近道には片思いが便利だと思う。
一方で他者からすれば不気味な不審者でしかないのだろうけれど、そこはご愛嬌。
「えーっ、結衣ってば彼氏いないんだ」
「田上さんこんなに可愛いのに不思議ー」
「バレンタインは結衣チョコあげるの?」
「結衣みたいな可愛い子に貰えるなら義理チョコでも男子鼻血だろうねー?」
作戦と分かっているが、さすがにこっ恥ずかしい。
友人二人は虚言癖を疑われても仕方あるまい、それほどに日常会話にはありえない持ち上げ用は不自然、この一言につきる。
わざとらしく讃えすぎる詩的なお喋りは鳥肌がたつ、嘘臭い、きな臭い、胡散臭い。
協力的でしょとばかりにドヤ顔で愛美と里緒菜に見つめられ、結衣はしばし困惑してしまう。
風に歌があるなら音痴だ、煩くて好きな人の声を聞き取れない。
「結衣可愛いー」
「マドカで一番結衣が可愛い!!」
女子高生の悪い癖はテンションの上げ方を間違えるところだ。
「いやいや私全然っ、かわいくないじゃん」
首を振って全否定する。