揺らぐ幻影

「ぎゃあーちょっと死んじゃう死んじゃうったら! 借りちゃった! 借りたからっ、うわーっきもい私!!」

大きな叫び声にE組の生徒は何事かと発信源に注目した。

どうやら奇声を上げたのは尋常ない真っ赤な顔ではしゃぐ髪の毛が長い女子生徒らしい。


しかし、不愉快デシベル女にたいして影響力がないため、「田上うっせーぞ」「田上さん発狂すんな」と、

一言二言苦言を貰うだけで、すぐに視線は外される。

ちなみに一年生は中学を引きずりまだ幼いので、すぐにひやかされる節があるせいか、

教室は男女であまりつるまない。

二年生になると、暗黙の了解で小グループができる不思議。

従って、まだお子様なクラスでは、必要最低限の会話しか異性間にはなかったりする。


「ああーダメっ」

まるで汚いものを持っているかのように、結衣は電子辞書を愛美に向かって投げ付けた。

自分なんかが触ることさえ恐れ多い気がしたからだ。


「やったじゃん頑張ったねナイス」

「偉い偉い、パンのスティックじゃん」

内気とまでは言わないが、あまり表立って行動することの少ない友人が、

意外と作戦に沿って動くことができることに、愛美も里緒菜も内心驚いていた。


要するに、恋を知ると人は積極的にがらりと変身するのだろう。

逆に言えばいつ消極的になるかの不安もあるが、今積極的ならそれでいい。


ダメな時はダメな時だ。
先に気を病むよりも、瞬間を突っ走って行動すればいいはずだ。

壁に激突したとしても、笑い飛ばせる人でありたいと願う。


いいや、きっと〇×ゲームだ。
行き止まりだと思っては間違いで、突き抜けた先が正解かもしれないのだし、

池ポチャになりたくないけれど、

ぶつかってみなければ、〇と×のどちらが正しかったのかは一生分からないままになってしまうのだし、

自分の全て、体当たりで挑みたい。

惜しみなくやれるだけやって、ずぶ濡れになるなら後悔はしない。


もしもの話。仮定なのだから、実際結衣は自分がどう出るかは分からないが、

目の前に、たった二択しかないのに、逃げるんてしたくない。

それが今の率直な気持ちだった。

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