一なる騎士
 あまりにも異様な<気>の流れ。

 まるで、巨大な滝壷のすぐ側にいきなり放り出されたかのようだった。
 四方八方から、いや世界中から<気>が流れ込んできていた。

 ただ一点を目差すかのように。

 いや、惹きつけられるかのように。

 怒濤のように流れ落ち、渦を巻く。

 いったい、この中心には何があるというのか。

『王』が<気>の制御を放棄している今、確かに<気>の流れは荒れている。しかし、これほどまでの異常が何の前触れもなく突然に起こるなど考えられない。まして、ここまで明確な方向性を<気>の流れを持つなど見たことも、聞いたこともない。

 いったい、何がこんな<気>を呼び込んでいるというのか。
 いずれにせよ、この中心には尋常ならざるもの、あるいは存在があるということか。

 異質な存在が。

 ふとクレイドルは背筋に冷たいものを感じた。

(リュイス、あなたなのか?)

 奇しくも『一なる騎士』をただの人間とは思えないと言い放ったのは、つい今さっきことだ。

 しかし、リュイスはクレイドルが思う以上に尋常ならざるものだったと言うことか。

『一なる騎士』は、王の守護者にして断罪者。

 であれば、『大地』の気を統括する王と正対できる力がなければならない。
 いや、あって当然なのだ。

『大地の女神』はそれだけの力を『一なる騎士』に与えている、そう言う事なのか。

 しかし、探ろうにもこれほどに強烈な<気>の流れの前では、精霊など嵐の海に浮かぶ木の葉も同然だ。ただただ翻弄されるばかりに過ぎない。彼の特異な感覚にしても、できるのは<気>流れを感じることだけで、それ以上ではない。

(何が起こると言うんだ?)

 ただ胸騒ぎだけが強まった。


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