一なる騎士

(11)召喚

 ざわざわと風もないのに枝葉のゆれる音がする。

 湿った土と草の匂いが鼻につく。
 空は闇に閉ざされ、星明りすらない。
 己の足元すら判然とはしない。

 けれど、リュイスは迷うことも躊躇うこともなかった。

(『来よ』と)

 呼ぶ声があるから。
 ただ、まっすぐに歩を進める。

 すれ違う数多の気配があった。

 柔らかな、優しげな、あるいは厳しく、冷たい気配の数々。

 拒むようにリュイスを押しのける。
 誘うようにリュイスにまとわりつく。

 けれど、惑わされることはない。
 心を動かされることもない。
 ただ、前を目差す。

 彼を呼ぶもの、そして彼が求めるものを目差す。
 道はやがて階段に変わった。
 下へ、下へと降りていく階。

 導かれるように、リュイスは下っていく。
 階段は前後に折れ曲がりながらもなおも続く。

 深く深く、地中深くに分け入っていくように。

 風の音がさらに騒がしくなっていく。
 湿った土と草のにおいが濃密になる。

 疲れは微塵も感じなかった。
 気分はここ数年にないほどに、明瞭で爽快だった。

 彼を呼ぶ声は近い。

 ただどこまでもどこまでも下っていく。
 ただただ足を動かしていく。
 まるで永遠に終らない道行きかのようだった。
 けれど、それは唐突に終った。

 
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