一なる騎士
 強大な<気>の流れを見極めようとして、当てられてしまったのだ。

 鼓膜を破らんばかりの大音響の中から、入り混じる膨大な量の音を聞き分けようとするようなものだった。普通の人間の感覚に処理できるものではない。しかも、本来クレイドルには<気>の流れを感じとることはできても、読み解くほどの力はない。

 神経をすり減らした挙句、ろくに口も利けない状態では、むろん戻ってきたリュイスを問いただすどころではなく、そのまま部屋まで送られてしまう始末であった。

「おはよう」

「おはようございます」

 朝の挨拶を交わすと、リュイスは向かいの席についた。

「もう大丈夫か? 昨日はずいぶん、具合が悪そうだったが」

 声をひそめて話し掛けてくる。と言っても、この広い朝食の間に二人以外にいるのは給仕をする使用人だけだ。公爵は滅多に朝食を摂らないという話しだし、嫡子のエイクの姿は見えない。別邸の方なのだろう。

「平気です。よく眠れましたから」

 酷く心配げだったリュイスに『眠れば大丈夫だから』と、なんとか告げたのを思い出す。実際、今はもうほとんど何ともない。少しばかり気だるいだけだ。お得意の笑顔を作って見せると、逆に心配げな顔をされた。

「君は笑顔で無理をするからな」

 ぎょっとする。

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