一なる騎士
 あきれ気味のクレイドルの様子に構わず、エイクはいつもの調子を崩さないまま話し掛けてきた。

「よく眠れたかい」

「お陰様で」

「ふうん。その割にはくたびれた顔しているよ、坊や」

「気のせいですよ」 

 にっこりとクレイドルも笑い返す。その格好を見ているだけで疲れたなどとおくびにも出す気はない。出したところで余計に疲れるだけの返答が戻ってくることくらいとっくに経験済みである。

「あ、僕はけっこう」

 エイクは給仕をしようと近づいた召使いを軽く制した。彼はクレイドルの隣の席に腰を下ろすのみならず椅子ごとクレイドルのすぐ側に移動してくる。

 何事かと警戒の視線を投げかけると、エイクは軽くリュイスを顎でしゃくってみせ、耳元にささやきかけてきた。

「お前、あれに何かしたのか」

「人聞きの悪いことを言わないでください」

 クレイドルも声を潜めて答える。どうやら彼もリュイスの異変に気づいたようだった。しかし言われたことは頂けない。

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