一なる騎士
 朝食を終え、自室に戻るリュイスにクレイドルは追いすがった。

「リュイス、なぜ彼を。確かに頭はきれる人物ですが、危険です」

 クレイドルの幾分責めるような強い口調にもリュイスは動じなかった。淡々とした答えが返ってきた。

「私も彼は危険人物だと思う。だから側において目を離さないことにした」

 リュイスの答えに迷いはなかった。ただ、クレイドルの違和感が新たになる。

(違う。これは違う)

 実直でまっすぐなリュイス。
 清廉潔白と言えば聞こえはいいが、馬鹿がつくほどに真面目な彼に、そんな芸当ができるはずがない。

 クレイドルの幼い頃から周囲の風当たりはいつも強かった。彼は精霊の愛し子であり、当時の長の実孫でもあった。何事もできて当たり前、できなければ後ろ指を差される。

 そんな中でクレイドルは自分の年よりも幼く見える容姿を利用することを覚えた。
 無邪気に笑って見せればたいていの大人はころりとだまされてくれた。

 少し回り道をすれば意志を通すことが難しくないことも悟った。

 障害にぶつかれば何も体当たりして痛い目を見なくても、ちょっとだけ回り道をすればいいだけのことだ。それが少しばかりずるいやり方だとしてもだ。

 幾分か姑息な生き方をしてきたという自覚があったせいか、クレイドルにはリュイスはいつもまぶしくみえていた。

 自分などとは比べ物にもならないほど重い運命を背負いながらも、どこまでもまっすぐな彼。

 最初はそんな彼を要領の悪いやつだと、内心嘲笑していたのに、いつのまにやら、そのままでいさせることができればと願っていた。

 まっすぐな彼が腹黒いセイファータ公爵とともに陰謀を企てねばならぬ様はいっそ痛々しくも見えていたものだ。

 それが……。

「リュイス、昨晩は何があったんですか」

 気になってならないことだった。『一なる騎士』の身の上にいったい何が起こったというのだろうか。彼をこんな風に変えてしまうような。

 しかし。

「別に何もないが」

 リュイスは不思議そうに首を傾げる。なぜそんなことを問い質されるのかわからないと言った様子だった。






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