一なる騎士
「困りましたね。精霊たちがその子に悪戯を仕掛けないように結界だけでもしかせてほしいんですけど?」

「悪戯だと?」

 今度も敏感に反応したのはリュイスだった。彼には、かの姫君にどんなささいな危険もよせつける気はなかった。

「そうなんですの。人間でも可愛い子を見ると構いたくなるでしょう? 精霊でもそれは同じです。自分たちの好みの子にはちょっかいをかけたくなるんですよ。精霊たちには悪気はないんですが、手加減ってことを知りませんからね。とうてい、生まれたての赤子では抵抗できません。そうならないように、大人の精霊使いが護ってやるんです。それでも、間に合わなくて、死なせてしまうこともあるんですよ」

 何を思い出したのか、彼女はふと視線を落として、悲しげな顔になった。
 そうすると、さらに彼女は年老いて見える。

 しかし、リュイスにはそんなことに構っていられる余裕などまったくなかった。

「死ぬだと!」

 外敵からならいくらでも護ってやるつもりだった。自身の命に代えてでも。
 だが、相手が目には見えない精霊やら幽霊やらになると、リュイスにはどう対していいものやら、さっぱりわからない。

 血相を変えた『一なる騎士』に、彼女は微笑みかけた。

「あら、あなたは『一なる騎士』様ですね。あまり大きくなったから、わかりませんでしたわ。でも、それなら、ちょうどいいですね」

「なにがちょうどいいんだ?」

「『一なる騎士』には精霊の力は通用しません。それでなければ、『一なる騎士』は勤めが果たせませんもの。あなたは、歩く<対精霊用結界>なんですよ」

 歩く<対精霊用結界>とは、何だかずいぶんな言われような気がしたが、自分とその周りに精霊の力が及ばないと言うのなら、答えは一つである。

「それは、つまり、僕が側にいればいいということか」

 精霊使いの長はにっこりと笑った。

「そういうことです。とりあえず、今夜一晩だけでもお願いしますよ。」

「待て」

 目を鋭く光らせて、二人の会話を聞いていたアスタートが遮る。
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