一なる騎士
「精霊たちは『大地の王』の意志にはさからえんはずだ。大地の王の姫に手出しなど出来ぬはずだ」

 大地の剣ルイアス。精霊たちを容赦なく呪縛する剣。

 それを持つ王に彼らは従う。
 気ままな精霊とはいえ、王命に反することはできない。

 どんなに優れた精霊使いでも、精霊に王命に反する命を下すことは出来ないのだ。
 彼女はまたも困った顔をした。渋々と言葉を紡ぐ。

「王が真からお望みになっていればね」

「我が子の安全を願わぬ親など、どこにいるというのだ。それに陛下は子煩悩でいらせられる」

 打てば響くようにアスタートは応える。彼は、現陛下が王子の頃は、その護衛役を担当していただけあって、陛下の人柄は知っている。傲慢で我が儘にみえて、その実、己に厳しく、責任感も強い人だ。激情家で感情の浮き沈みが激しいので、誤解を受けやすいが、決して悪い人間ではない。初子であった息子への溺愛ぶりは微笑ましいくらいだ。生まれたての姫君に対して決して悪いようにはしないはず。

 アスタートの視線が同意を促すようにリュイスに向けられる。

 けれど、リュイスには何とも応えられない。娘の誕生に王は喜びの色を見せなかったとは聞いている。三年前の王子の誕生の時には、あれほど手放しで喜んでいた人が。

 彼もまた勘づいたのだろうか。我が娘の真実を。彼の地位を脅かすものであることを。

(だとしたら)

 ふいにリュイスは動いた。
 年老いた精霊使いの腕をつかむ。

「一緒に来て下さい」

 というなり、ほとんど老婦人を引きずるようにして連れていこうとする。

「なっ、待て」

 あわててアスタートが止めにはいる。精霊使いを城内に入れるなというのは、王の厳命である。そう簡単に破られては、たまらない。巨体で進路を塞ぐ。薄青い瞳が厳しい叱責の色を見せて、リュイスを睨み下ろした。

「どういうつもりだ、お前」
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