一なる騎士
「こんな夜中に何用か! それに精霊使いは王命により宮中に立ち入り禁止だったはず。その命を破ってまで何用か!」

 騎士隊長に厳しい恫喝にも似た詰問にも、その優しげな老婦人は少しも怯まなかった。
 相変わらず、にこにこと笑っている。

「今宵、女の子がお生まれになったでしょう? その子は精霊に愛されて、生まれてきた御子です。お迎えに上がったんですよ」

「なんだと!」

 顔色を変えて、抗議の声を上げたのはリュイスだった。

 茫然とことの成り行きを見守っていた彼だが、話がかの姫君に及ぶとなれば、黙ってなどいられない。

 彼の主を勝手に連れていくなど、もってのほかである。

「姫君をどうすると言うんだ?」

 老婦人は優しげな表情を崩さないまま、リュイスに顔を向ける。

「そんなに怖い顔をしないで下さい。生まれながらにここまで精霊に好かれる子どもを放っておくわけには行かないのですよ。精霊たちに、良心とか良識とか常識とかないんです。彼らは、自分たちが愛しんでいる者に、命ぜられれば何のためらいもなく、その通りに動きます。子どもの我が儘のままにね。だから、今のうちから、精霊使いとしてきちんとした教育を施さないといけないんです」

「姫君がそうだというのか?」

 リュイスは動揺しながらも確信していた。あの幼き姫君はけっして常人ではない。本来、気ままで気まぐれな精霊すらも、やすやすと従わせるだろう。真の『大地の王』として生まれてきたものなのだから。

「姫君がどうかは知りませんけどね。今日ここで産まれた女の子ですよ。精霊たちが喜々として報告してくるものだから、もう騒がしくてしかたがないくらいでしたよ」

 そう言う年老いた精霊使いも、またどこか嬉しげですらある。

「わかった。その旨、王に報告しておく。しかし、今日はもう遅い。お帰り願おうか」

 一方的にアスタートが宣言すると、彼女はちょっと困った顔をした。
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