一なる騎士
「ひさしぶりだな、レイル」

 声に顔を上げると、レイルはそのまま固まった。

「あっ」

 小さく声を上げたきり、言葉を失う。

 金の縁取りのある漆黒の甲冑に身を固め、右手には金の羽根飾りのついた兜をかかえてその人は立っていた。黒いマントを肩に留める金の鎖飾りが、差し込む朝日を弾いて輝いている。

 ずっと前、庭園で出会ったことのある人だった。

 あの時は、すごくびっくりしてその場から逃げ出すことしか考えられなかったけれど、あとで何度も思い返した。自分の叔父さんだと言う人。黒い髪に黒い瞳。見たこともないほどきれいで、そしてとても格好よかった。

(母上はなんにも教えてくれなかった)

 あのあと母のサジェルに問い掛けてみても、彼女は悲しげに笑うだけで、レイルはそれ以上なにも聞くことができなかった。

「君の叔父さんだよ。忘れたか?」

 かけられる言葉はなぜか遠くて、レイルの耳を素通りしていた。

(なんだか、まぶしい)

 あのときもこんなだったろうか、こんなふうにこの人はまぶしかっただろうか。

 確かに見たことのないほどきれいな人だと思ったけれど、こんなふうではなかったような気がする。何がどうだとわからないし説明も出来ないけれど、ただ見下ろしてくる青年の顔を見ていられない。

 なぜだか心臓がどきどきして、頬が熱い。
 たまらずレイルは顔を伏せた。

「君には嫌われているようだな」

 小さなため息とともに、自分から離れていく気配がある。

 とてもまぶしくて見ていられないくせに、なんだか離れがたい。しかし、後を追いたくても、レイルはその場から一歩も動けなかった。

 首根っこにしがみついていた父親もとっくに離れて身軽になっていると言うのに。
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