一なる騎士
 知らず離れていく後ろ背を見送っていると、横合いから冷たい視線を感じた。

「いい気なものだな」

「兄上?」

 薄い金の髪に灰色の瞳の少年がレイルをにらんでいた。側には少年をそっくり縮めたような小さな女の子。レイルの異母兄妹だった。

「だれが兄だ。下賎な女の子どもの癖に」

「お前、なんでここにいるの」

 投げつけられる冷たい言葉が幼いレイルの身をすくませる。どうして、彼らはいつもこうなのか、レイルにはわからなかった。

「およしなさい」

 言葉少なに、けれどきびしく彼らをたしなめたのは、冷たい顔つきの貴婦人。
 彼女は兄妹の母にして、父の正夫人。
 二人の兄妹の手を引き、レイルのことを綺麗に無視して、彼のそばを通り抜けていく。

 レイルは何もいえない。彼らに出会うときはいつもそうだった。
 酷く馬鹿にされていること、特にその矛先が母に向かっていることは、幼いレイルにもわかっていてもどうすることもできなかった。
 
 ただ唇をかみ締めて泣くのを我慢する。彼らの前では、絶対に泣いてはいけない気がしていたから。

「まったく、いまいましい」

 背後の小さな呟きに振り向くと、家政婦のアリアが硬い表情で立ち尽くしていた。

「アリア?」

 彼女はレイルのほうに身を乗り出すと、囁くように話しかける。

「お坊ちゃま。いいですか。奥様はあの方たちとは比べ物にならないほどの高貴な血筋を引かれた方です。お坊ちゃまが引け目を感じることなんかありません。まっすぐに顔を上げていればいいのです」

「うん」

 どこか覚束なげに返事をするレイルに彼女は、不満そうに眉をひそめたがそれ以上は何も言わなかった。 


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