一なる騎士
「あ」

 小さく声をあげてクレイドルは崩れるようにその場に膝をついた。
 <気>の流れを感じた。それも生半可ではない。

 まるで滝壷の側に投げ出されでもしたかのような激しさ。
 セイファータのあの夜にも感じたものと似ている。

 しかし、それ以上のもの。

<精霊の視力>は閉ざしていたはずなのに、遮断できない。意識下に作っていた障壁はあっけなく吹き飛んでしまった。

 堅く瞼を閉ざしても、強烈な光は拒めない。逆にこじ開けられてしまうのと同じに。
 それほどに苛烈な<気>の流れ。

<気>は四方八方からリュイスを目掛けて渦を巻き、怒濤の様に流れ落ちていく。

『一なる騎士』は強大な<気>に取りこまれていくように見えた。あるいは<気>を自ら呼び込んでいるようにも。

 そして。

 そして、消えた。

 唐突に。


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