一なる騎士

(10)断罪者

 サーナはまばゆいばかりの光に堅く目をつぶった。

 身を引き裂かれるのような強風が襲い掛かる。

 結い上げた髪は解け落ち、彼女の頬を容赦なく叩いた。

 ずしりとした重みが身体にのしかかる。押しつぶされてしまいそうな力に身体を縮
める。こみ上げてくる吐き気を必死に耐えながらも気が遠くなるのを止められない。

 腕の中に抱いたはずのアディリの感触がとっくに失われていることにすら気づいていなかった。

 アディリの警告通り、精霊の愛し子どころか精霊使いですらないサーナには精霊の<移動>は生易しいものではなかったのだ。

(リュイス様、助けて)

 ただ遠く慕わしい面差しにすがる。黒い髪と瞳の騎士。
 己の進む道がどんなに厳しくとも歩みを止めないかの人。

「サーナ」

 呼ぶ声が聞こえた、はるか遠く。けれど、聞き違いようのない声が。

「リュイス様」

 サーナの唇が動く。けれど、それは強風に吹きさらわれて声にはならない。

 と。

「サーナ」

 ほんの近くで、呆れたような怒ったような声がした。聞き覚えのある声。けれど、サーナが求めるものではない。

「え?」

 ふいに身体が軽くなる。


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