一なる騎士
 彼の姫君はまたなんと敏感で聡いのだろうか。

「そうかもしれませんね。でしたら、私と姫君は一緒ですね。私と一緒はいやですか?」

 とたん、幼い姫君はかぶりを振った。新緑の瞳がさらに真剣味を増す。

「いやじゃない。でも、父様にきらわれてもわたしは父様が好き。父様はわたしの父様だから、わたしのことも好きになって欲しい。でも、そういうの、わたしのワガママなのかな」

「いいえ。そんなことはないですよ」

 どうして、この姫君はこれほどまでに、高潔でまっすぐなのだろうと思う。

 いや、そうであればこそ、リュイスは彼女を真の『大地の王』として、戴くことに、何の迷いもためらいもないのだが、同時に、この姫君が父親を嫌いになってくれたら、憎んでくれたらとも思う。

 そうすれば、自分がいつかやらねばならないことも、ずっと楽に進むだろう。彼が護らねばならぬ者を、傷つけることも、悲しませることもなく。

 この世の者とは思えぬほど、愛らしいとはいえ、蒼白く不健康な顔色の彼の主。

 たぶん、もうあまり時間はないのだ。
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