一なる騎士
 リュイスの問を否定も肯定もせず、幼い姫君はただすがるような眼差しを彼に向ける。父との邂逅がよほどショックであったのは間違いない。

 考えただけで、リュイスは胸が痛くてしかたがなかった。

 だが、彼にできるのは力づける言葉をかけることだけだった、今はまだ。

「そんなことあるわけないでしょう。この世のだれが姫様を嫌おうが、どうしようが、私だけはあなたが好きですよ。なぜなら、私はあなただけの騎士なんですから」

 それだけは断言できた。この姫君が生まれたときに、彼の心は決まっていた。

 そして、その時から更なる精進を重ねた。文武両道においてめきめきと頭角をあらわした彼の進歩ぶりに、彼を騎士にすることをしぶっていた王すらも、それ以上の無理を通せなかったほどに。

「リュイスは父様の騎士だ。大地の王の『一なる騎士』」

 幼い姫君にとっても、それは周知の事実。けれど、当の一なる騎士にして見れば、それは事実にたりえない。『一なる騎士』は『大地の王』の片腕にして、守護者となるべきもの。けれど、現『大地の王』は『一なる騎士』を側に寄せつけようともしない。それで、どうして『一なる騎士』たりえようか。

 それに彼の真の主は目の前にいる。

「セス様の父上は、私を必要としていないのですよ」

 しごくあっさりと、リュイスは答える。

 まだこの姫君が生まれる前は、そのためにどれほど傷ついただろう。けれど、真の主を見出した今、彼には何も恐れるものなどない。

 今はもうリュイスにとっても『王』は必要ではないのだ。

「リュイスも父様にきらわれているのか?」


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