一なる騎士
 アディリは冷たそうに見えて、感受性が高く繊細な娘だ。
 精霊の苦しみに心耐えかねるほどに。
 だから、無意識のうちに自分の力を閉じてしまった。

 そして、そういう自分に気づいていない。気づこうとしない。
 気づきたくないのだろう。自ら精霊の苦しみに背を向けてしまったことを。

 まだ大人ではなく、クレイドルほどに修行を積んでいない以上、しかたのないことだった。とはいえ、この少女ならば自分を許せないだろう。それほどにまた彼女は心優しい。

(アディリ、君の力は失われてなんかいないよ。でも、君は自分で気づかなければならないんだ)

 けれど、これだけは彼女は言わずにはいられなかった。

「アディリ」

 呼ぶ声にしぶしぶと彼女は青年に顔を向けた。

「何ですか」

 この子は、いまだ蕾。堅く堅くつぼんだ蕾。
 花は逆境にあえばあうほど美しく咲き誇ると言う。
 しかし、時には暖かな光が、優しい雨が必要だ。でなければ、咲かぬ前に枯れ果ててしまうだろう。

 だから、せめてこれだけは。

「辛いときは辛いと言っていいんだよ」

 虚をつかれたのか少女は一瞬泣きそうな顔をした。
 けれど、泣かなかった。
 ただ必死で耐えていた。


(一なる騎士外伝「いまだ咲かぬ花」:FIN)
< 212 / 212 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

魔女の報酬3~封呪の守り人~

総文字数/38,098

ファンタジー71ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
   性格のよろしくない王子様プラスとっても変な王様。  それだけでも手に負えないと言うのに、さらに変わり者な妹姫まで現われて。 ------------- 「ね、なにか魔法を見せてよ。魔法使えるんでしょ」 「彼女にここで魔法を使われると、城が壊れる」 「いいんじゃない。私は城が壊れたって、困らないもの」 「君が困らなくても、僕が困る」 「お父様は、喜ぶと思う」 --------------    そんな魔女メディアのちょっと普通じゃない日常? に、思いもかけない危機が忍び寄る。 「魔女の報酬」完結編ついに登場。
魔女の報酬

総文字数/11,705

ファンタジー21ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「魔女というのは、突き出して曲がった鼻を持つ、物凄い年寄りと相場が決まっているものだ」 「カエルにでも変えて欲しいの?」  赤毛の魔女メディアの元を訪ねたのは、若く美しくけれど性格はよろしくない王子。 彼の依頼は竜退治。 そして、魔女が要求した意外な報酬とは? ----------- 未薗 希紗様、しのきるか様、風夢匠様素敵なレビューをありがとうございます。 感謝いたします。
魔女の報酬2 ~果ての森編~

総文字数/23,474

ファンタジー39ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
「あの人ってば、私をからかってばっかりなのよ。ああっー、もう思い出しただけで腹が立つっ!」  愚痴りながらも、王子様の危機に魔女メディアは受けて立つ。なぜって、 「このまま黙っていられるもんですか。これは私に対する宣戦布告だわ」 どこまでも素直じゃない彼女だけれども……。 ------------ 意地っ張りな赤毛の魔女と、美しいけれど性格はよろしくない王子様。 ラブコメファンタジー「魔女の報酬」第2弾です。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop