一なる騎士
「どうしてもいやならやめてもいいよ。僕は無理強いする気はないから」

「『精霊の愛し子』として受けた教育分くらいは次に還元して欲しいとおっしゃったのは長殿でしょ。それに身分の高い姫君なら、今から縁を作っていて損はないし」

「それじゃ、どうして住み込みはいやなんだい?」

「甘やかされて育った苦労知らずなお姫様の子守を一日中だなんて、いくらなんでもまっぴらだからよ」

(甘やかされてか)

 もしそうならどれほどよかったことか。
 しかし、かの姫君は父王に疎まれている。
 ことによれば、それがすべての騒動の原因と言ってもいい。アディリが力を失ったことすら。

 いまや『大地』をめぐり、豊穣に導く<気>の流れは荒れていた。
<気>を正しく導くはずの『大地の王』がその任を放棄しているせいだった。<気>は滞り、<気>の流れを力とする精霊たちは弱り、苦しんでいた。

「聡明な君らしくないな。先入観はよくない。君はまだ彼女に会ってもいないのに」

 アディリはぷいと横を向いた。
 幼いながらも精一杯の意地っ張りぶりは、逆に痛々しくもある。

 実際、『精霊の愛し子』であったからこそ、やはり同じ愛し子の面倒を見るというのは、辛いだろうとも思う。最初に打診したとき、一度は拒否された。精霊使いでなくなったとしても、精霊学の基礎くらいは教えられるだろうと説得し納得させはしたのだが、やはりまだ彼女には重荷すぎるかもしれない。

 それでも。

(これは賭けだ。だが、あの類稀な姫君ならばきっと……)
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