一なる騎士
 わかっている。

 それは、ただ一つのことを忘れたいがためだった。
 自分がどんなに望んでも得られないもの、努力だけではどうにもならないものを、生まれながらにやすやすと手に入れていたのは、己のが娘だったこと。

 人を惹きつけずにはいられぬ者。
 魅了せずにはおかぬ者。
 そして、精霊さえも従える者。
 自分には決して持ち得ないもの。

『大地の王』として、自分はそれほど無能だとは思わなかった。

 いや、むしろ、その逆。

 自分なら、歴代の王たちよりも、賢王と名高かった自分の父親よりも、ずっとうまくやれると思っていた。
 学問も武術も研鑽を積み、兄弟のなかでは自分が一番優秀だった。

 だから、『一なる騎士』に聖別されたとき、当然なことだと思ったし、そういう自分が誇らしくもあった。
 まだ幼かった『一なる騎士』のまっすぐな信頼に応えられると、そう確信していた。

 けれど、現実は厳しかった。

『王』など、単なる飾りに過ぎなかった。 
 大地の豊穣を約束する者に過ぎなかった。
 しかも、彼には精霊たちの気配すら感じ取ることができなかった。

 前王、彼の父には、『大地の剣』を通じて大地を巡る<気>が感じ取れたという。
 もともと王家の一族は、精霊使いの素養のある一族だった。
 現に、王家からは、かなりの人数の精霊使いが輩出している。

 けれど、彼は『大地の剣』を手にしても何も感じることができなかった。
『大地』の豊穣を祈ってみても、そこには何の手応えもなかった。

 それが、彼の最初の挫折だったのかもしれない。

 心優しき精霊使いの長は慰めの言葉をかけてくれた。

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