一なる騎士
収穫の半減は即、貴族たちの実入りの半減につながるはずである。
 しかし、実際には彼らの収入は変わらない。
 収穫の減った分、税率を引き上げたのは、誰だったか。

 収穫は半分、税率は倍。実質四倍の酷税である。泣かされるのは、いつも権力とは無縁の無辜(むこ)の民。

「王がまともにその責務を果たしていれば起こらぬはずのことだぞ」

 その王を強く推したは誰だったのか。
 十四年前のあのとき、組みし易しと見て、あの人を推したのは誰だったか。
 自分の足元に火がついた今になって、王位から引きずりおろせと言う。

 けれど。

 けれど、自分もけっきょくは同じ穴のムジナに過ぎない。

「必要とあれば、私は、王を弑した最初の騎士になるでしょう」

 ゆっくりと、リュイスは宣する。

 真の王のためなら、どのような汚名とて着よう。

 たとえ、彼の護るべき者、真の主から、怨まれることになろうとかまわない。

 それが『一なる騎士』としての誇りある宿命というならば。

「悠長なことだ。だが、いつまでも貴族たちを抑えておけると思うな。彼らの不満も限界に近い」

 それもまたきれいごと。
 この男は自分にもっとも有利となるときを狙って、今は彼らを抑えているにすぎない。

 自分の利害には聡い男だ。
 リュイスの姉を略奪同然に、自分の息子に娶らせたほどに。

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