一なる騎士
 お茶を前にしても手をつけようともしない少女を、サーナは子細に観察していた。
 十二歳だと聞いたが、その割には肉付きのよくない、やせっぽちな娘だった。

 赤いリボンが襟元についたエルウェル初等科のかわいらしい夏の制服を着ているのに、ちっともかわいく見えない。

 色の薄い、ほとんど白に近い銀髪は、きっちりとお下げに編まれて両肩で揺れている。
 あまり健康的に見えない蒼白い肌。
 鼻のあたりには、薄くそばかすが散っていた。
 痩せているためか、全体にとがり気味の容貌に神経質そうな印象を受ける。

 しかし、何よりその目。
 ごく淡い水色の瞳が、挑むように睨むようにサーナを見つめてくる。
 しかも、さっきから話しかけてもろくに返事もしない。

(こんなかわいげのない無愛想な子どもを大事な姫様の先生にだなんて。ほんとにもう何考えていらっしゃるんだか)

 サーナはアディリからクレイドルに視線を向けた。

 精霊使いの長は、少女とサーナの間に漂う気まずい雰囲気など何も感じてもいないように、お菓子を食べつつお茶をすすり、なおかつ自分の連れてきた小さな教師をほめちぎっていた。

「アディリはエルウェルでも優秀な生徒だよ、サーナ。今期の精霊学では、学院一の成績だった。正規の教師になるには年が足りないけれど、基礎の精霊学くらいなら十分教えられるはずだ。年が近い分、姫の遊び相手にもなれるだろうしね」

 自分がほめられているというのに、彼女は少しも反応しなかった。
 じっと前方を見つめて押し黙ったきりだ。
 こんな無反応ぶりで遊び相手などなれるのか、サーナにははなはだ疑問だった。
 いくら頭が良くても、情緒面に問題がありすぎるように思える。

「あの、クレイドル様が教えて下さるんではなかったのですか」


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