ボーダー
波乱

緊急渡米

『今日は予想外のことが起こるかも!
焦らず、冷静に対処してね!』

今日の星座占いは、こんな結果だった。
普段は占いなんて全く信用しない。

だが、今日ばかりはそれがやけに脳内で反芻されて朝から落ち着かなかった。

登校中も、教室に入ってからも、ボーッとしていた。

『ちゃんと聞いてるか?
宝月!
ボーッとして!
具合が悪いなら保健室行けよ!』

数学の担当教師に注意されてしまった。

いつもは注意なんかされないのにな、オレ。

数学Bの授業が終わって教室に戻って、しきりに点滅している携帯のランプを見たとき、何か胸騒ぎがした。

……心臓のドキドキが周囲まで聞こえてしまうようで、手が震えてなかなか通話ボタンが押せなかった。

……そして、この電話でオレは、朝の占いが当たったことを確信したんだ。

アメリカでお世話になった、村西《むらにし》さんからの着信だった。

『レン!
平和な高校生活を送っている最中、悪いな。
お前にしか頼れないんだ。
……いいか、落ち着いて聞け……
メイが……2人の男に……無理矢理犯されたんだ……』

「なんだって……!
アイツに限ってまさか……!」

『……俺が保護したのは、午後17時45分。
命に別状はない。
だが、身体全体にアザが出来てる。
彼女を産婦人科に行かせて、緊急避妊薬も手に入れた。
メイの年齢があと1歳高ければ、薬局で手に入ったらしいんだ。
婦人科の先生曰く、今からでも十分効果はあるらしい。

飲ませたが、副作用の吐き気がたまにあるようだ。
警察とは連携済みで、彼女が精神的に落ち着いたら事情を聞くらしい。
向こうとしては、彼女の記憶が薄れないうちに聞きたいという。
そのためには、蓮太郎。
お前の協力が必要だ。
なるべく早く……来てくれるか?』

「……はい。」

オレが聞かされたのは、あまりに衝撃的な言葉。

最後の返事も……上手く言えていたかどうかわからない。
覚えているのは……声を出したくてもなかなか声が出なかったことだけだ。
……事件は、オレが今日、学校に行こうと家を出た時間に、メイの住んでいるニューヨークで起こったというわけか。

「………すぐ、行きます!」

オレは勢いよく電話を切ると、何も持たずに、教室を飛び出した。

……だが。

「……どこに行くつもり?
私とミツに何も言わないで、独りでアメリカ行くなんてもう許さないからね?」

ハナに行く手を塞がれる。

「ハナの言うとおりだ。
確かに、オレはハナの恋人だ。
だからといってレン。
お前との幼なじみの関係はこの先も変わりないんだ。
分かったら、オレたちには話すんだな。
何があった?」

この2人なら……きっとオレと同じ思いをしたはず。

たった一言。
想い人が無理矢理犯されたと言うと、なるほどと言った様子で頷いた。
一を聞いて十を知ったようなのは、幼なじみだからか。
はたまた、2人も同じ経験をしたからか。

温かく見送ってくれた。
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