ワンダー、フルカラー
シンデレラの名前が出てきてイラッとした。『いつかきっと』、そんな仮定的な言葉を使い続けて夢が叶った瞬間に『諦めなくて良かった』とか、そんなようなことを言い放った彼女は僕から見れば狡い。決して物語を否定しているのではないけれど、僕はあの物語を受け付けない。
待ち続けても叶わないことだってある。僕はずっと、シンデレラなんかよりも小さい頃から待ち続けた。だけどその夢は叶わない。幻で終わってしまったのだ。
夢とかそういう下手をすれば幻になるようなもの、僕はいらない。触れられるものが欲しい。
シンデレラを誰が不幸なヒロインだと言ったのだろうか分からない。住む場所があっただけ、裕福な家にいられただけ幸せではないか。
僕はどうだ。最初から自分の家が存在していないんだぞ。

「…眠れない。」

今日起きた出来事を考えていたら眠れなくなってしまった。
根津さんは夜中に帰ってくるおじさんを待つとか言っていたけれど…おじさんが帰っていなかった場合、まだリビングで起きているのだろうか?いや、待ちくたびれて眠っていそう。

(…眠れないし、)

僕はおじさんのベッドから起き上がると、部屋から出て1階のリビングへと向かう。
老夫婦の家は1階建てな為、2階建ての家に暮らしたことがない。だから階段を昇り降りすることがどこか新鮮に感じた。

「根津さん…?」

彼女がいる筈のリビングへとやって来ると、根津さんの下を向いた頭が目に入り、僕はまさかと思って彼女に近付く。
目の前にやって来て顔を覗き込んでみると、規則正しい寝息が耳に入り、更に視界には気持ち良さそうに眠る彼女の顔が映った。

(熟睡してる…)

根津さんの寝顔だなんてあまり見たことがない。
小さい頃から一緒にいるけれど、寝ている姿になんて滅多に遭遇したことがなかった。授業中だって寝ている姿を目撃したことがない…僕の方が普段寝ているから。

「根津さん、風邪引きますよ。」

声を掛けて肩を揺らして起こそうと試みる。が、しかし起きる気配は全くない。

「根津さん…」

更にグラグラと揺らしてみたけれど、やっぱり起きる気配だなんて全くなくて…

「………!」

そして揺らしすぎにより、彼女の体は僕のいる方へと倒れ掛かってしまった。
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