こころ、ふわり


しばらくその絵の前に立っていたら、後ろから聞き覚えのある女の子の声が聞こえた。


誰だったっけ?


と思いながら振り返ると、弓道部の後輩がいた。


その後輩と目が合う。


急いで目をそらしたのに、後輩は一瞬眉を寄せたあと


「もしかして、吉澤先輩ですか?」


と尋ねてきた。


帽子もかぶっているし、伊達メガネもかけているし、マスクもしているというのに。


すぐに私だと気づかれてしまい、びっくりした。


「あ、やっぱり吉澤先輩ですよね?わぁ、偶然ですね!」


後輩は嬉しそうに私の手を取る。


「ほんとだね、まさかここで会うなんて」


私も懸命に合わせてニッコリとマスクの下で微笑む。


「お母さんが行きたいっていうから仕方なくついてきたんです」


と、後輩は隣のお母さんらしき人を見やっていた。


そしてすぐに私に向きを戻すと


「吉澤先輩、彼氏さんですかぁ?」


と私の隣の芦屋先生を、輝いた目で見つめた。


芦屋先生の目が泳ぐのが見えた。


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