こころ、ふわり


「そ、そんなところ、かな」


私は答えながら、後輩が彼の正体に気づきませんようにと心から祈った。


「デート中に話しかけちゃってすみませんでした!それじゃ、また」


後輩は私にペコッと頭を下げると、そのままお母さんと順路を追って次の絵の方に歩き出していた。


ホッと胸をなで下ろす。


芦屋先生がさっきの後輩を目で追いながら


「今のって1年生?」


と聞いてきた。


「はい。部活の後輩です」


「1年生は担当してないから、たぶん気づいてないと思うけど……」


2人の間に微妙な空気が流れる。


そもそも、後輩が私の変装を即刻見破ったのもショックだった。


完璧なまでに吉澤萩という自分を隠せているなんて変な自信があったからだ。


「早めに出ようか。今日は俺も変装してきて正解だったな」


と先生が言うのが聞こえて、うなずくしかなかった。


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