こころ、ふわり
「芦屋先生は?」
と、澪が冷静に名前を挙げてくれた。
そうだそうだ、と心の中で私は両手を上げて抗議したいくらいだった。
若菜からすれば美術部の活動の時に芦屋先生と毎日顔を合わせているから、新鮮味も何も無いのだろう。
「芦屋先生かぁ。私はパスかな。どっちかっていうと俺様タイプが好きだから。芦屋先生なんて俺様の’お’の字も無いよね。半分は優しさで出来てる感じ?」
それはどこかの薬の成分でしょ、とまた心の中で突っ込んでしまった。
「そうそう、芦屋先生で思い出した!」
突然手を叩いて、若菜が楽しそうに話し出した。
「さっき言ってた新任の先生、名前なんだっけ。国語の……」
「玉木先生のこと?」
私がすぐに言い当てたから、若菜がちょっと意外そうにこちらを見る。
澪なんて「ダレ?」ともはや分かっていない様子だった。
「萩、よく知ってるね。そう、玉木先生。あの人ね、芦屋先生に気があるんだよ」
「えっ!!」
若菜の話で、大声を上げたのは私だけだった。
あまりにも声が大きくて、賑やかだった教室内で一瞬注目が集まってしまうほどだった。
とっさに自分の両手で口をふさいだ。