こころ、ふわり
美術室に、芦屋先生はいなかった。
明かりもつけっぱなしだし、帰ったとは考えにくい。
ちょっと拍子抜けしながら、私は美術室の中へ足を踏み入れた。
ツンと香る絵の具の匂い。
美術室独特の、好きな匂いだ。
いつも先生が座っている机には書きかけの書類が無造作に置いてあって、その上にボールペンが転がっている。
私が去年のクリスマスにあげたボールペン。
前に見た時は、先生の胸ポケットに入っていたんだ。
このボールペンを、先生はどうして使っているのかな。
深い意味は無いかもしれないけれど、嬉しかった。
ふと美術室の奥に、小部屋があるのを見つけた。
準備室という名前が掲げられたその小部屋は、私のような一般の生徒は入ったことが無い。
この機会に、と思って中を覗いてみる。
思ったよりも準備室の中は狭くて、部屋の半分は美術部員が使うキャンバスを立てる……私には名前が分からないけれど、そういう道具が並べられていた。
人の形をかたどった大きな模型とか、よく分からないオブジェのようなものがホコリをかぶって奥の方に押しやられていた。
壁際に組み立ててある木製の棚には、はみ出そうなくらいダンボールが積み上げられている。
キョロキョロと準備室の中を観察していると、美術室の扉が開く音がして、私は急いで準備室から出た。