こころ、ふわり


美術室に入ってきたのは、芦屋先生だった。


先生は何か資料を手に持っていて、そればかり見ていて私には気づいていない。


どうしよう、と思っているうちに芦屋先生が不意に顔を上げた。


ボーッと突っ立っている私を見つけた瞬間、先生は後ろに後ずさりして驚いていた。


「びっくりした。どうしたの?」


まさか私がいるなんて夢にも思ってなかったっていう、そんな顔をしていた。


「あの……話がしたくて。ここに来てしまいました」


私がそう言うと、先生は自分の腕時計を見て


「下校時刻、過ぎてるよ。帰らないとダメだよ」


と呆れたようにため息をついた。


その先生の言動がなんとなく冷たく感じてしまって、思わずシュンと肩を落とす。


「誰かに見られたらまずいよ。ここもじきに見回りの先生が来るかもしれないのに」


「そ、そうですよね……」


さっきまでの勢いは私の中にはもはや無くなってしまって、もう帰ろうとさえ思ってしまった。


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