こころ、ふわり
先に団体戦から試合が始まるので、私は他の部員たちと整列し、対戦相手の高校の選手たちと向かい合って礼をする。
さっき一瞬見えたような気がした芦屋先生のことが気にかかったけれど、今は試合に集中しなくてはと自分を奮い起こす。
芦屋先生には私の試合のことは一言も言っていない。
若菜は美術部員だけれど、そういうことを話すタイプではないはず。
誰かが言ったのではないとすれば、どうして?
やっぱり見間違いなのだ。
心のどこかで芦屋先生を想うあまりに、幻影を作り出したに違いない。
私はさっきの光景を忘れるようにつとめて、試合に臨んだ。
去年の大会には怪我で出られなかったから、なんとしても結果を残して頑張りたかった。
自分の袴姿を見下ろす。
この袴も、着るのが最後かもしれないんだから。
「よろしくお願い致します」
と部員たちと声を合わせて、審判と対戦相手に挨拶をした。