こころ、ふわり


ギュッと目を閉じて、心を落ち着かせた私はゆっくり開けた目で遠くの的を見つめた。


周りの音が消えて、集中力が高まっていく。


弓を握る手に力が入る。


肩の力は抜いて、指先の感覚を信じて。


矢が、放たれた。


トン!
と、小気味いい音を立てて的に当たる。


残りの3射も、すべて命中した。


喜びたいところだけれど、こういう場で喜びを表現するのは禁じられているので我慢し、5番手の同級生に


「あとは任せたよ」


と声をかけた。


うなずいたのを見届けてから、私はまた応援席に目を向けた。


徳山先生の隣に、もう芦屋先生の姿は無かった。










< 579 / 633 >

この作品をシェア

pagetop