白衣を脱いでキス。
そうだ…。
先生は“歯医者”。
あたしは“患者”。
なんで、こんな自分の都合のいいように物事を考えてしまってたんだろう。
先生があたしをそういう対象で見るわけないってわかってたのに。
…なのに、心のどこかでもしかしたらって夢を見てた自分もいた。
「理子、ちゃん?」
先生の手が顔に伸びる。
でも、思わずその手を払ってしまった。
「っ患者に治療以外で触っちゃダメです」
歯医者のクセに頭とか、髪とか触るなんて反則だよ。
次から次へと涙が頬を伝うのがわかった。
できたら、泣き顔なんて、見せたくなかったのに。
「…患者に……こんな思わせぶりなことも、しちゃダメです」
…あたしみたいに勘違いしちゃう子も、世の中にはいるんだから。
診察イスからおりて、脱いだローファーを履きなおす。
「…どこ行くの?」
「帰ります」
ここまで言ったら、きっと先生にあたしの気持ち伝わっちゃっただろうなぁ。
荷物を入れるカゴからバッグを掴んだ。
「ダメ、送る」
なんで…?