白衣を脱いでキス。



この際、せめて先生の記憶に残してやる。

大勢の患者の1人にならないように。

よくても、悪くても、先生の中に印象強く残りたい。


「…先生」


まだイスに座ったままの先生は立ったあたしよりも目線が少しだけ低い。


「…理子ちゃん?」


そこからはほぼ勢いだった。

先生の唇があると思われる場所に、首を傾けた。

マスク越しのキス。

ファーストキスは中3のときの初めての彼氏。

それ以上のことは未経験。


「…たった2日だけど……なんでかわからないけど…」


先生は固まってる。

ちょっとだけ申し訳ない気持ちになったけど、会うのは今日が最後になるだろうから大目に見て欲しい。


「……頭も、心も…先生でいっぱいなんです」


パチパチと瞬きを繰り返す先生はなんだか可愛い。


「…つまり?」


瞬きを繰り返していた先生がふいに目を細めた。

…つまりって。


「…もっと簡単に表せる言葉があるだろう?」



今度はあたしがパチパチと瞬きをする番だった。



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