アンガー・グラッチ・ヘイトレッド
*
詩織ちゃんと学校の前で別れて真っ直ぐ寮に帰った。
自分の部屋に入るなり急に眠くなった。制服を床に脱ぎ捨ててベッドに倒れ込むようにうつ伏せになって眠った。
薄れていく意識の中で体育系の部活が寮の前を控え目な掛け声を出しながら走る足音が聞こえた。
まっ暗闇。
光りは無い。
音も無い。
だけど詩織ちゃんの後ろ姿だけが暗闇を切り取ったみたいにはっきりと見える。
ここはどこだ?とは思わなかった。むしろ俺はこの場所がどこかを知っている気がした。頭では把握してるんだけど、言葉にするのは難しい。そんな感じ。
「詩織ちゃん。」
後ろ姿の詩織ちゃんに呼び掛けたけど、彼女から返事は帰って来ない。
「詩織ちゃん!」
返事は帰って来ない。
「詩織…ちゃん?」
彼女は振り返らないで俺の呼び掛けに答えた。
「もうダメよ。これ以上は続けられない。」
「続けられないって何をだよ?」
「クロちゃんをやっつけるのはもう出来ないって言ってるの。」
「そ、そんな…。何言ってるんだよ。」
詩織ちゃんに近づこうと歩いたけど、一向に近づけない。
「もうダメなのよ。アタシも汚れちゃったんだもん。」
走っても何をしても距離は近付かない。むしろ少しずつ離れている。
「詩織ちゃんっ!どこ行くんだよ!?」
彼女は俺が何を言っても、それ以上何も言わなかった。
彼女が暗闇に向かって歩いていくと、はっきりと見えていた後ろ姿はだんだんとぼやけてきて、遂には見えなくなってしまった。
「詩織ちゃんっ!」
俺は暗闇の中を詩織ちゃんを探して走った。
彼女が消えた方向に走って走って走って…。それでも彼女を見つけれなかった。
だけど暗闇の中に光が見えた。その光りに向かって走り近付くとその光りは俺の背丈並の大きさだった。
暗闇の中でそこだけ光が溢れている。
本能的にここしか無い。と思った俺は光に飛び込んだ。