アンガー・グラッチ・ヘイトレッド
「ごめんっ、君は僕が止めるっ!」
俺は彼女の木刀を精一杯の力を込めて打ち上げた。
「つっ…!」
彼女は手首を押さえる。
俺がこうするとは全く予想してなかったのだろう。
黒い木刀はくるくる回転しながら彼女の手の届かない所に落ちた。
今度は逆に俺が彼女に木刀を向けていた。
彼女は俺を睨む。
「何突っ立ってんのよ?アタシを止めるんでしょ?」
俺は木刀を手放した。
重力にしたがって木刀は足元に落ちた。
「出来ないよ。」
詩織ちゃんは眉間にしわを寄せる。
「詩織ちゃんを殴ることなんて出来ない。」
「アンタって本当っバカね!」
詩織ちゃんは落ちた木刀を素早く拾うと、俺の頭を殴り付けた。
頭がぐらぐら揺れる。
倒れそうになる。
だけど、ここで倒れるわけにはいかない。
両足で踏ん張った。
「俺にはこうすることしか出来ないよ。」
たらり。と
額から血が流れる。
ぐらり。と。
倒れ込むように詩織ちゃんを抱きしめた。
「大好きだから、もう止めようよ。」
詩織ちゃんは「離しなさいっ!」と、もがいたけど、俺は絶対に離さないと決めていた。
「やめてっこれ以上アタシを苦しめないでっ!」

ゆっくりと自分のまぶたが閉じていく。

暗闇から…暗闇へ。

視界が0になって感覚だけが生きている。

頭が割れたんじゃないかと思うくらいの額の傷の痛さ。

切なくなるくらいに冷たい彼女の体。
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