死霊むせび泣く声
「済まないけど、ちょっとトイレ行かせて」


 と里夏に一言言い、いったんトイレに立つ。


 カウンター席から店出入り口の方まで、ほんの二メートルほど歩いた場所に男子トイレがある。


 俺はトイレに入っていくと、便器で用を足しながら、考え続けていた。


 あれは果たして単なる誰かのいたずらなのか、それとも霊界からの霊の降臨なのだろうか……? 


 ジャーという音がして水が流れた後、俺は洗面台で手を洗うため、蛇口を捻る。


 俺の背筋がまた凍る羽目となった。


 出てきた水が赤黒い血の混じったそれだったからだ。


「わっ」


 一瞬飛びのき、真正面の鏡に目を移すと、世にもおぞましい武者の霊が髪を振り乱して、背後に立っているのが映った。


 俺はまた怯えたのだが、翻り、冷静に物事を整理する。

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