空き瓶ロマンス



いなくなってしまった事。
 
傍にいなかった事。
 
今まで会わなかった事も。
 
寂しい思いをさせたわね、と呟く母の瞳は、次第に涙で滲んでいった。

 
大きくなったわね、二人とも。
 
格好良いわよ、修。
 
美人になったね、倫子。
 

飾らない言葉で、母は私達を褒めた。
 
兄の手に触れながら、私の頬を撫でながら。
 
こんな事すらしてやれなくて、ごめんなさいと。
 
泣きながら、母は謝った。
 
落ち着いてから、母は小さな包みを二つ、枕の下から出した。箱みたいなものだった。
 
中身は、アクセサリーだった。
 
兄には、タイピン。

私には指輪だと言って、母はおそらく最初で最後になるのだろうプレゼントを、私達に手渡した。

こんなタイミングになってしまったけど、と。




< 713 / 891 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop