空き瓶ロマンス



本当は、兄が成人した時に、私達に記念にと贈ろうと思って買ったらしい。

その時こそ、会わなくちゃいけない。

ずっとこのまま避け続けていたら、本当に親子でも何でもなくなってしまう。
 
縁が切れる事に、孤独になる事に、母は極端に怯えていた。

特に死を意識するようになってからは、それが強くなったという。
 
以前、弁護士を通して一度ここへ訪れた兄は、母の姿を見た際に号泣したそうだ。

やっぱり兄には、少しだけ母と一緒にいた記憶があるから、多分その分、例えおぼろげな思い出だったとしても、とても寂しかったんだと思う。
 
母の夫という人が席を外してから、私達は三人で、色々な事を喋った。
 

とは言っても、母はもう喋るのも容易ではないようで、今まで起こったたくさんの事を、兄がずっと喋りまくっていた。


 
追憶。
 

あるいはダイジェスト。
 

兄は駆け足で、私達の人生を母に伝えた。


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